今年の7月にジョージアを訪れてから、Pterocarya(サワグルミ)プロジェクトが動き出しました。がっちりとした枠組みはありませんが、東アジアとコーカサスに分布するサワグルミ属の比較対照研究です。遺伝学、生態学、生理学など得意な分野で自主的に参加するクラウドなチームです。スイスのフライブルク大学のコツロフスキーさんが中心となって立ち上げているZelkova(ケヤキ)プロジェクトが発展したものです。これらのプロジェクトには、スイス、ジョージア、イラン、アゼルバイジャン、中国、ベトナム、そして日本の研究者が加わっています。すでに、遺伝子解析や形態比較に用いるサンプルが続々と集まりつつあります。
1978年に私が静岡大学の増澤研究室で卒業研究を始めてから、現在まで共同研究として行っています。この年に森林限界上部から亜高山帯の針葉樹林まで永久コドラートを設置して樹木のサイズや分布を調査しました。その後、修士過程の研究で森林限界を構成する樹木の葉の窒素動態や、ミヤマハンノキの群落光合成量を測定したりしました。21年後の1999年、30年後の2008年にコドラートの再調査を行い、森林限界が上昇していることを確認しました。
1982年に私が秩父にある埼玉県の県有林の管理を担当した時に、この大山沢の原生林に出会いました。シオジ、サワグルミ、カツラなどを林冠木とする典型的な山地渓畔林です。亜高木にはオオイタヤメイゲツ・イタヤカエデ・サワシバが、低木にはチドリノキ・アサノハカエデなどが分布しています。ここに60*90mのプロットを設定して、森林の構造などの調査を行ったのが1983年です。私が県の林業試験場に移動になった1987年からこのプロットにリタートラップを設置して、落葉量や種子散布量を測定しています。1991年からはプロットを拡大し、現在は4.7haになり、5年ごとに直径の測定を行っています。
このプロットはJaLTERの準プロット、環境省モ二1000のコアプロットになっており、NPO法人もりと水の源流文化塾と私を含む数名の研究者によって研究が続けられています。また、多くの研究論文も出版されています(研究論文のページを参照)。
埼玉県熊谷市周辺の荒川の河川敷に大麻生野鳥の森公園があります。ここには比較的自然度の高い河畔林が分布しています。この野鳥の森にはエノキ・ムクノキ・ケヤキ・シロダモなどの天然の河畔林の構成種が分布しており、荒川の中流域でも貴重な自然が残っています一方、上流域から分布を拡大してきた外来種のニセアカシアによる生態系の劣化が見られます。また、河川撹乱の減少による砂礫地の安定化は、希少植物のハビタットを減少させその更新を制限しています。
ここに2003年に長さ500m、幅25mのベルト状のプロットを設置し、樹木の毎木調査を行い、森林構造を把握しました。今後、この河畔林がどのように変化してきたのか追跡調査を行う予定です。
ハリエンジュに関しては、これまで上流域の秩父から中流域まで繁殖特性を中心に研究を行ってきました。また、ハリエンジュの除去を目的とした施業試験も行ってきました。
ハリエンジュ全般
崎尾均 編著 (2009.4) ニセアカシアの生態学.pp336 文一総合出版、東京
崎尾均 今、なぜ、ニセアカシアが問題となっているのか?、3-8
崎尾均 ニセアカシアの萌芽力、175-183
練春蘭・木村恵・崎尾均・寶月岱造 マイクロサテライトマーカーが明かすニセ
アカシアの繁殖特性、185-199
崎尾均 渓畔域におけるニセアカシアの除去、287-295
崎尾均 ニセアカシア林をどのように扱うか?、327-331
崎尾均(投稿中)なぜハリエンジュは日本の河川流域で分布を拡大したのか?.緑化
工学会誌 40(3):465-471
繁殖特性などの生活史に関する研究
福田真由子・崎尾均・丸田恵美子 (2005.8) 荒川中流域における外来樹木ハリエンジ
ュ(Robinia pseudoacacia L.)の初期定着過程. 日本生態学会誌 55: 387-395.
川西基博・崎尾均・米林仲 (2010.11) 河川敷における洪水と草地への火入れが
ハリエンジュ Robinia pseudoacacia L. の種子発芽に及ぼす影響
保全生態学研究 15(2):231-240
除去を目的とした施業試験
<上流域での除去>
崎尾均 (2003.11) ニセアカシア(Robinia pseudoacacia L.)は渓畔域から除去可能
か?.日本林学会誌 85(4) 355-358
<中流域での伐採による除去>
比嘉基紀・川西基博・米林仲・崎尾均(投稿中)侵略的外来樹木ハリエンジュ
(Robinia pseudoacacia L.)若齢林の伐採後の刈り取りによる管理.緑化工学
会誌 40(3):451-456
<中流域での巻き枯らしによる除去>
崎尾均・川西基博・比嘉基紀・崎尾萌(投稿中)巻き枯らしによるハリエンジュの管
理.緑化工学会誌 40(3):446-450
2011年7月29日からの大雨は700mmを超え、只見町の只見川や伊南川では多くのヤナギ類を優占種とする河畔林が破壊されました。この周辺のヤナギ林はシロヤナギ、オノエヤナギ、ユビソヤナギなどで、特にユビソヤナギは絶滅危惧II種に指定されています。私の研究室の学生が只見町出身で2011年に卒業研究、2012-2013年に修士論文のためにヤナギ林の更新の研究を伊南川で行いました。この時の洪水では多くのヤナギが倒れましたが、以外と流木化したものは少なかったようです。一方、このヤナギの河畔林は上流から流れてきたスギなどの人工林の流木を捕捉していました。このような河畔林の効果はふだんは見られませんが、今回の洪水ではっきりと見ることができました。
演習林を含む佐渡島の植物について様々な視点から研究を行っています。共同研究の募集や佐渡ステーションの施設を利用した教育関係共同利用実習も募集中です。詳しくは、佐渡ステーションのHPをご覧ください。
http://www.agr.niigata-u.ac.jp/fc/sado_html/sado_index.html